なぜFDSBはAKCに寄らなかったのか

― その違いは、組織の大きさではなく「何を残したいか」だった ―

まず、FDSBとは何か

FDSB とは、Field Dog Stud Book(フィールド・ドッグ・スタッドブック) の略です。
これは、アメリカで発達したフィールドトライアル系・実猟系の鳥猟犬の血統を記録するための血統登録簿です。

一般的な犬籍団体が、犬種全体の登録やショー評価、犬種標準の管理も含めた広い役割を持つのに対して、FDSBは特に、

  • フィールドで働く犬
  • フィールドトライアルで実績を残す犬
  • その能力を血統として残していくこと

に強く軸足を置いてきた血統管理の仕組みです。

つまり、FDSBの血統書は、単に「どの犬の子か」を示すだけでなく、その犬やその一族がフィールドでどれだけ結果を残してきたかを見るための資料でもあります。


「CH GUARD RAIL」の後ろにある「*42-290-2714」とは何か

「CH GUARD RAIL」の右にある「*42-290-2714」 は、
FDSBの血統書でよく見られる**“実績表示”**です。

意味は、次のように読むのが一般的です。

*(米印)

その犬が Field Trial Hall of Fame に選ばれていることを示す記号、とされています。
これは、公式ルール文書で明確に凡例として確認できたわけではありませんが、FDSB系ペディグリーの説明として広く用いられている読み方です。


42

その犬自身の フィールドトライアル入賞数/placements(勝ち数・入賞記録) です。

FDSB公式の登録規則でも、“with wins” のペディグリーには、次の3つの数値が載ると説明されています。

  1. field trial placements
  2. winners produced
  3. total wins of progeny

この最初の 42 が、それにあたります。


290

その犬が出した子のうち、勝ち上がり犬(winners produced)の頭数です。

つまり、その犬の子どもの中で、実際にトライアルで勝ち記録を残した犬が290頭いた、という意味になります。


2714

その子どもたちが積み上げた 総勝ち数(total wins of progeny) です。

つまり、その犬の産子全体で見たときに、トライアルでの勝ちや入賞の記録が合計2714回に達している、ということです。


つまり、かなり噛み砕いて言うと

「*42-290-2714」 とは、

この犬は Hall of Fame 級の名犬であり、本人も42回入賞し、290頭の勝ち犬を出し、その産子全体では2714回勝っている

という意味です。


「CH」は何か

なお、左の CH は普通に Champion(チャンピオン) です。

ですから、CH GUARD RAIL は「チャンピオン Guard Rail」という意味で、
その右の 米印と数字 は、その犬の競技成績と、繁殖犬としての実績の要約だと考えると分かりやすいです。


*Field Trial Hall of Fame とは何か

Field Trial Hall of Fame は、要するに殿堂入りです。

American Fieldでは、1954年に始まった表彰制度として説明されており、
フィールドトライアルの世界で特に大きな功績を残した犬や人物が選ばれます。

これは単なる人気投票ではなく、
この競技の世界で特に大きな足跡を残した存在を顕彰する制度です。

そのため、血統書の中で犬名の横に米印が付いていて、それが Hall of Fame を示しているのであれば、その犬は

「単なる勝ち犬」ではなく、後世に残る影響を与えた名犬として顕彰されている」

と理解してよいです。


したがって、「CH GUARD RAIL *42-290-2714」 という表記は、初心者向けに一文で言えば、

Guard Rail はチャンピオン犬であり、さらに Field Trial Hall of Fame に顕彰された名犬で、本人も42回入賞し、290頭の勝ち犬を出し、その産子全体では2714回の勝ち記録を積み上げた、非常に影響力の大きい種牡犬だという意味です。

FDSBの流れを見ていると、ひとつ気づかされることがあります。
それは、犬の血統書というものが、ただ犬の戸籍を記録する紙ではない、ということです。

何を記録し、何を残し、何を価値とみなすのか。
そこには、必ず思想が入ります。


なぜFDSBはAKCに寄らなかったのか

そして、おそらくFDSBがAKCに寄らなかった理由も、まさにそこにあったのだと思います。

もちろん、ここでひとつ慎重に言っておかなければならないことがあります。
「なぜFDSBはAKCを選ばなかったのか」を、FDSB自身が公式に一文で説明した資料は見当たりません。
ですから、ここで書くことは、公開されている事実をつないで見えてくる、かなり強い推論です。

けれど、その推論は決して空想ではありません。
むしろ、流れをたどれば、かなり自然に見えてきます。

そもそもFDSBの世界は、AKCがフィールドトライアルを制度として本格的に扱うより、ずっと早くから始まっていました。
アメリカのフィールドトライアルの記録は1874年にさかのぼり、FDSBもまた、その頃からフィールドドッグの血統を記録してきました。
一方で、AKCのポインティングブリードにおける公式なフィールドトライアルは、1924年からです。

この時間差は、ただの年表上の違いではありません。
そこには、文化の育ち方の違いがあります。

つまりFDSBとAmerican Fieldの世界は、AKCがその分野を制度化するより前から、すでに独自のフィールド文化と独自の血統管理を持っていたのです。
フィールドで働く犬を見て、評価し、その結果を次へつなぐ。
そういう世界が、AKCとは別の流れとして、先に成立していたわけです。

もちろん、だからといってAKCがフィールド無関係だった、という話ではありません。
それは違います。
AKCもフィールドトライアルを扱っていますし、Field Champion のようなタイトル制度も持っています。
FDSB犬とAKC登録が並立するケースもあります。

ただ、それでもなお、両者の性格は同じではありません。

AKCは、あくまで総合的な犬籍団体です。
犬種標準があり、ショーがあり、審査制度があり、犬種全体を大きな枠組みの中で扱っています。
フィールドもその中のひとつです。

それに対してFDSBは、最初からずっと軸がぶれていません。
FDSBが守ろうとしていたのは、見た目として正しい犬ではなく、フィールドで働く鳥猟犬の系譜そのものでした。
言い換えれば、FDSBは「犬種全体の帳簿」ではなく、「実働犬の血を残すための帳簿」だったのです。

この違いは、小さくありません。
むしろ本質的です。

ショーも扱い、フィールドも扱う。
それ自体は悪いことではありませんし、AKCの役割としてはむしろ自然でしょう。
ですが、FDSBの側から見れば、それはやはり“フィールド専業の帳簿”とは違います。
そこには、少しずつ価値の重心の違いが生まれます。

その違いを、いちばんはっきり浮かび上がらせたのが、UKCとの統合だったのだと思います。

UKCは買収時に、American Field / FDSBを「ポインティングドッグのアップランド・フィールドトライアルと、その繁殖記録に特化した存在」と説明しました。
そしてUKC自身は、「犬が本来の仕事で優れること」を中心思想として掲げています。
さらにAmerican Field側も、「両者はすでに同じ焦点を持っている」と述べています。

この言葉は、とても大きいと思います。

そこから逆に見えてくるのは、FDSBが求めていた相手は、単に大きな団体でも、有名な団体でもなかった、ということです。
そうではなく、同じ方向を見て、同じ価値で犬を評価する相手だったのではないでしょうか。

そう考えると、FDSBがAKCに寄らなかった理由は、組織の力関係や再編上の都合だけでは説明しきれません。
もっと根本にあるのは、「何を犬の価値とみなすのか」という思想の違いです。

AKCは、フィールドも扱う総合制度です。
FDSBは、フィールドの実績に強く軸足を置いた制度です。
この差は、外から見る以上に大きかったはずです。

ですから、もしこの話を一文で言うなら、こうなるのだと思います。

FDSBがAKCに寄らなかったのは、AKCが悪かったからではない。
FDSBが残したかったものが、ショーも含む総合犬籍ではなく、フィールドで働く鳥猟犬の系譜そのものだったから。

そしてその意味で、FDSBが最終的にUKCと結びついたのは、かなり自然な流れだったのだと思います。
そこには、制度の違い以上に、犬を見る眼差しの一致があったのでしょう。

参考:


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