犬がハンドラーを意識するように訓練する
フィールドで犬をハンドリングするためには、犬に命令を聞かせる前に、犬自身がハンドラーの位置や動きを意識していなければなりません。
ここでいう「意識する」とは、犬が常にハンドラーを見ながら走ることでも、足元から離れなくなることでもありません。
犬は自分の鼻を使って前方を探索しながら、ときどき後ろを振り返り、ハンドラーの位置と進行方向を確認する。その確認をもとに、自分から進路を調整する。この状態をつくることが目的です。
マイク・トレイシーは、若犬にハンドラーと一緒に動くことを教える方法について、次のように語っています。
若犬が止まってこちらを見たら、そこで方向を変える。犬がまたこちらを見たら、再び別の方向へ進む。
若犬にハンドラーと一緒に動くことを教える方法、パターンのつくり方、ハンドリングなどについて、解説します。
犬を呼ばずに、こちらが動く
訓練は、犬が自由に動ける安全な場所から始めます。最初から広いフィールドへ出すのではなく、犬の姿と反応を確認できる程度の草地が適しています。
犬を前方へ走らせたら、ハンドラーは必要以上に声をかけません。犬が探索を始めても、その後ろを追い続けるのではなく、まず犬の動きを観察します。
犬が一度立ち止まり、ハンドラーの位置を確認するために振り返った瞬間、ハンドラーはそれまでと違う方向へ歩き始めます。
たとえば、犬が正面へ走っていたなら、右または左へ大きく進路を変えます。このとき、犬の名前を呼んだり、笛を吹いたりして注意を引く必要はありません。
犬は振り返った場所にハンドラーがいない、あるいは別の方向へ動き始めていることに気づきます。そして、自分の判断でハンドラーの進む方向へ戻ってきます。
この経験を繰り返すことで、犬は次第に次のことを覚えます。
- ハンドラーは、いつも自分の後ろをついてくるわけではない
- 自分からハンドラーの位置を確認する必要がある
- ハンドラーの動きを見れば、次に進む方向が分かる
- 離れて探索しても、ハンドラーと一緒に移動する必要がある
重要なのは、犬をこちらへ引き戻すのではなく、犬に「自分から確認しなければならない」と気づかせることです。
振り返った瞬間に方向を変える
方向転換のタイミングは、犬がこちらを見た瞬間です。
犬がこちらを見ていないときに突然方向を変えると、犬はハンドラーがどちらへ進んだのか分からなくなります。反対に、犬が振り返ってから長く待っていると、犬はそのまま自分の進みたい方向へ走り出します。
犬が顔を上げ、こちらを確認した瞬間に動きます。
犬にとっては、
「ハンドラーを見たら、進む方向が変わった」
という経験になります。この関連を繰り返すことで、ハンドラーを見る行動そのものに意味が生まれます。
犬が新しい進行方向へ合わせてきたら、そのまま一緒に進みます。毎回呼び寄せて足元まで戻す必要はありません。犬がこちらの動きを理解し、同じ方向へ走り始めれば目的は達成されています。
犬が追いついたら、再び前へ出す
犬がハンドラーの近くまで戻ってきたときに、毎回止めたり、リードを付けたりすると、犬は「戻ると自由が終わる」と覚えてしまうことがあります。
犬が進路を合わせてきたら、必要に応じて短く褒め、再び前方を探索させます。
ここで犬に教えたいのは、
「ハンドラーを確認して戻っても、探索は続けられる」
ということです。
戻ることと自由を奪われることを結びつけないようにします。犬が自発的にこちらを確認する回数を増やすには、確認した後にも楽しい探索が続くことが大切です。
ハンドラーは犬を追いかけない
犬が遠くへ出たときに、ハンドラーが犬の後ろを追い続けると、犬は自分が好きな方向へ進めばハンドラーがついてくると学びます。
これでは、犬がハンドラーを意識する必要がありません。
犬が進む方向をハンドラーが追認するのではなく、ハンドラーがフィールド全体を見て進路を決め、犬がそれに合わせます。
ただし、犬の探索を細かく管理するという意味ではありません。犬の鼻や意欲を尊重しながら、チームとして進む大きな方向だけを示します。
声や笛を使いすぎない
訓練の初期から何度も名前を呼び、笛を吹いて方向を変えさせると、犬は合図があるまでハンドラーを確認しなくなる場合があります。
声や笛は、遠距離でも犬へ意思を伝えるための大切な手段です。しかし、犬が自発的にこちらを見る習慣ができる前に使いすぎると、合図に頼ったハンドリングになってしまいます。
最初に育てたいのは、合図への反応ではなく、犬自身がハンドラーを探す意識です。
そのため、方向転換の練習では、
- 犬を自由に探索させる
- 犬が自分から振り返るのを待つ
- 目が合った瞬間に方向を変える
- 犬が進路を合わせてきたら、そのまま進む
この流れを基本とします。
慣れたら少しずつ距離を延ばす
最初は犬が確認しやすい距離で行います。犬が自然にこちらを見るようになったら、少しずつ広い場所へ移し、探索できる距離を延ばします。
段階は次のように進めます。
- 見通しのよい狭い草地
- 少し広いフィールド
- 背の低い草や軽い藪がある場所
- 地形に起伏がある場所
- 鳥の匂いなど、犬を強く引きつける刺激がある場所
場所を変えると、犬の意識は匂いや地形へ向きやすくなります。新しい環境では一度難易度を下げ、近い距離からやり直します。
風を利用して進路をつくる
鳥猟犬の場合、犬は風を使って獲物の匂いを探します。そのため、ハンドラーの進む方向が風向きと合っていなければ、犬の自然な探索と衝突します。
犬を左右へ動かしたい場合は、風を正面または斜め前から受けるように進みます。犬が風を切るように左右へ探索し、その途中でハンドラーを確認する形をつくります。
犬が匂いを取って明確な目的を持って進んでいるときまで、機械的に方向転換させる必要はありません。ハンドラーには、犬が勝手に走っているのか、風や残臭を確かめながら進んでいるのかを見分けることも求められます。
チェックコードの役割
若犬がまだ呼び戻しを理解していない場合や、安全を確保する必要がある場所では、チェックコードを付けます。
ただし、チェックコードで犬を何度も引き戻すことが、この訓練の中心ではありません。チェックコードは犬の暴走を止めるための安全装置として使い、基本的には緩めた状態で犬を動かします。
犬が振り返ったらハンドラーが方向を変え、犬自身に追わせます。犬がまったく反応しない場合に限り、軽く合図を伝える程度に使用します。
うまくいっている犬の変化
訓練が進むと、犬の行動に次のような変化が現れます。
- 走りながら、ときどきハンドラーの位置を確認する
- ハンドラーが方向を変えると、自分から進路を修正する
- 遠くへ出ても、一定の距離で戻ってくる
- 呼び声や笛の回数が減る
- 犬の探索とハンドラーの移動が一つの流れになる
完成した姿は、犬がハンドラーの命令を待ちながら走る状態ではありません。
犬は鼻を使い、自分で判断して探索する。一方で、ハンドラーがどこにいて、チームがどちらへ進んでいるのかを忘れない。互いの動きを意識しながらフィールドを進むことが、ハンドリングの基礎になります。
犬を思いどおりに動かすのではなく、犬が自分からハンドラーと一緒に動こうとする関係をつくる。それが、この訓練の目的です。
ベルの場合
私は、ベルをフィールドへ出した当初、ベルが離れるたびに名前を呼び、笛で進む方向を変えようとしていました。
こちらを意識させるために、声や笛で繰り返し呼び戻していたのですが、声をかける回数が増えるほど、ベルは自分からこちらを確認しなくなりました。意識させようとして行っていたことが、かえって逆効果になっていたようです。
そこで、声や笛で強制的に呼び戻すのをやめました。ベルの後を追わず、自分から振り返ってこちらを見た瞬間に、私が進路を変えるようにしました。
結局は、犬が自ら気づかなければならないことです。犬に考えさせる余白や遊びを、ハンドラーが残しておく必要があります。
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